ぶいぶいれぽーと

VRChatとかバーチャルっぽい話を書く個人ブログです。

ミライアカリの古墳を訪ねて

3月31日に活動を終了したVTuberのミライアカリさんは、最後に行った配信の中で、VRChatに現れました。

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ミライアカリといえば、2017年からVRChatでの動画収録を行い、日本国内にVRChatという存在を知らしめた第一人者。「ミライアカリがいると聞いてやってきた」というVRChatユーザーも、話を聞けば意外といます。少なくない人をVRChatへと誘った彼女が、その活動の終わりにVRChatへ訪れるという出来事は、大きなインパクトがありました。

そして、この配信の中でミライアカリさんは「VRChatにアカリの古墳作ってよ!」「できれば前方後円墳がいい!」という趣旨の発言をしました。編集が入ったアーカイブ版ではそのコメント部分がカットされているものの、生配信でそのメッセージをしかと受け取ったVRChatユーザーにより、「ミライアカリの古墳」が複数生み出されました。

筆者が確認できるかぎり、その数は5つ。この記事では、ひょんなことからVRChatに生まれた「ミライアカリの古墳」をご紹介します。

1. ミライアカリの墓(前方後円墳

確認できた範囲だとたぶん最速で建てられた古墳です。円部分にあしらわれたアカリさんの顔と、どこかグラマラスなデザインが特徴です。

側面には石室への入り口もあります。

中にはただしく和風なお墓と、VRChat降臨インスタンスのスクショと思われるものが。制作者のエージェントSATANさんは、あのインスタンスに入場できた一人。現地で彼女を見送ってきた一人だからこそ、熱量と速度をもって建てられたのかもしれません。

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2. ミライアカリの墓 MiraiAkari_Grave

とてもシンプルで、もっとも由緒正しい形式の前方後円墳。二段重ねの古墳はかなりのサイズ感で、はからずもミライアカリという存在の大きさを感じ取れます。

古墳の近くには碑文。こうした碑文があると、自然とその場に「史跡」という属性が付与されるようです。

ワールド内には巨大な動画プレイヤーもあります。近くの動画リストには、ズラッと並ぶミライアカリの動画の数々。古墳で手を合わせてから、みんなで思い出の動画を鑑賞するという体験ができる仕掛けです。

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3. MiraiAkari Memorial ミライアカリ メモリアル

前方後円墳状の、白色の記念碑のようなものが置かれたワールドです。西洋式の大きめの墓碑のようにも見えます。

台座には、アカリさんへのメッセージを込めた碑文が刻まれています。「少しの間だけ眠っています」という表現が、バーチャルだからこそ不滅である、VTuberという存在の可能性を示しているようです。

こちらでも、彼女の動画が大画面で再生されています。思い出の動画と、花、そして青い蝶を眺めながら、在りし日を振り返ることができるおだやかで美しい場所です。

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4. long-potato ville

一見すると、日本のかな~り田舎なワールド。古びた神社や田んぼ、古びたバス停がなんとも味わい深いです。

そんな村のはずれに、小さな古墳がぽつんと建てられています。

近くの木の棒には、「仮想文化遺産 ミライアカリの墓(2017~2023)安らかに眠る」の一文。なるほど、VRChat文化を花開いた存在の古墳は、たしかに「文化遺産」の称号がふさわしいかもしれません。

このワールド自体は古墳発言より以前からあるもののようで、おそらく3月31日のあとに古墳が増築されたのだと推察されます。世界を自由に創造し、管理できるVRChatだからこそ、「自分のワールドに古墳を作る」ということもできるのです。

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5. VRChatここから始めました -Kokokara JP-

このワールドは、VRChatに関する歴史を年表として記録するワールドです。黎明期である2017年ごろから、主に国内で起きた様々なできごとを多数記録しており、現在も投稿フォームからの申請があれば加筆がなされます。

その一角にある、VRChatのゆかりの品々を並べたコーナーの中に、小さな前方後円墳が置かれています。青い蝶がとまる古墳の近くには、「かつて未来に明かりを灯したもの」と添えられています。

多くのVTuberやVRChatユーザーに「最初のきっかけ」を与え、一歩を踏み出す勇気を生み出したその功績を思えば、この一文は過言ではないと言えるでしょう。バーチャルの世界を切り開いたミライアカリの即席は、このワールドの年表にも刻まれています。

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その明かりを、忘れないために

前方後円墳を建ててくれ」とだけ聞けば、ミライアカリさんのユカイさを物語る言葉だと思われるかもしれません。しかし、最終配信で飛び出したこの言葉は、「みんなが寂しくなっても集まれる場所を作ってほしい」という思いから口に出たものでした。

VTuberはバーチャルな存在であるがゆえに、活動を終了しても死ぬことはありません。その人が忘れない限り、「ミライアカリ」という存在はいつまでも存在し続けます。

しかし、活動を終えたVTuberには「その後」がありません。それゆえ、思い返さない限り「停まってしまった存在」となってしまいます。思い出の中にある停止したキャラクターは、ある意味では死者に一番近い存在とも言えます。

引退したVTuberを想い、寂寞感に襲われる人は多いものです。その寂しさをまぎらわせるために、人は不意に往年の思い出を語り出します。死者を偲び、忘れないために。そうした機会を提供する場やイベントは、現実にもたくさんあります。そして――「墓」という場は、その代表格と言えるでしょう。

ミライアカリというVTuberの歩みは、100%が喜ばしいものではなかったと思います。最終配信で彼女が口にした言葉からも、きっと歯がゆい思いの中で活動を終えたことが察せられました。しかし、そうはいっても、ミライアカリは「四天王」とすら呼ばれた、VTuber文化の最初を築き上げた、大きすぎる存在です。彼女のあとに続いたVTuberやVRChat民は、無数にいるはずです。

筆者自身も、ミライアカリをはじめとした最初のVTuberを見て、VR機器を買い、VTuberの配信を追いかけ始め、この世界の記録をしたいと志し――そして現在、VRVTuber業界を追いかける専業ライターとなりました。その出会いがきっかけで、人生が大きく、楽しい方向へと転げていった一人です。この記事で何文字もテキストを重ねたところで、感謝してもしきれないでしょう。そして、筆者以上の感謝の念を持つ人も、数えきれないほどいるはずです。

そんな、バーチャルに生きる人たちの感謝と、忘れまいとする思いから、VRChatに「ミライアカリの古墳」が5つも生まれたのではないのかな、と思う次第です。もしかするとそのうち、この古墳を囲んで、"未来を照らした明かり"について語り合う日もくるのかもしれません。バーチャルを当たり前にした存在を、いつまでも語り継ぐために。