ぶいぶいれぽーと

VRChatとかバーチャルっぽい話を書く個人ブログです。

「ソーシャルVRライフスタイル調査2023」を読んでみた所感(ちょっと辛口)

[2023/11/09: UPDATE] 「ソーシャルVRライフスタイル調査2023」に改題されたので各所へ反映。

これはなに

note.com

「ソーシャルVRライフスタイル調査2023」が発表され、案の定、賛否両論な空気がただよってきたので、自分もざっと中身を読んで得た所感をまとめたもの。

ソーシャルVRプレイヤーかつ、業界寄りのライターとして受け止めた「内容に対する感想」が主で、統計・分析手法に関するところは門外漢なので基本的に差し控える。

TL;DR

  • おおむね、調査結果と自分の体感は一致する。それらを可視化した意義は大きい。
  • 「大きな変化がない」と結論づけられる項目が多かったのはポイントな気がする。
  • ライフスタイル調査ではあるが、ジェンダーセクシャリティ研究と、「特殊な感覚」の観点への設問ウェイトが大きく、バランスを欠く箇所がある。
  • 回答者の所属コミュニティ(より細かなもの)の情報がほしい。おそらくそれは"国籍"や"居住自治体"に相当し得ると思う。
  • "Lifestyle Survey"に「国勢調査」の訳を与えているのは、この調査内容と調査範囲からするとちょっと乱暴。
    • 改題したのでこれは削除。

調査の前提条件まとめ

  • 区分は「ライフスタイルとコミュニティ」「アイデンティティ」「コミュニケーション」「経済」「ファントムセンス」の5つ。
  • 回答数は2007。77.1%が日本。時点で北アメリカ(11.0%)、ヨーロッパ(5.7%)、アジア(日本以外、5.3%)。
  • VRヘッドセットを用いて、直近1年以内に5回以上使ったユーザーだけが回答対象(つまり、スマホユーザーやデスクトップユーザーは対象外)。
    • VRの没入性・体性感覚が及ぼす影響を重視した、VR体験にフォーカスした調査」であるため。

各セクションへの所感

Check1:ライフスタイルとコミュニティ

利用プラットフォーム、ユーザー属性、プレイ時間・目的、コミュニティに関する調査項目。

  • 全体的に体感と一致。「VRChat」の人口がやはり多く、「cluster」ユーザーがなんか増えている、という話は聞く。
  • 「Roblox」をソーシャルVRにカウントするのはちょっとアンフェアかな、とも思った。まぁ入れないよりはいいのだろうけど。
  • 「VRChat」ユーザーの20代多い率はなんかわかる。「聞けば20代前半だった」「同い年かと思ったら20代後半」みたいなことが多い。
  • 「cluster」が20代>30代>40代というのはちょっと意外。ただ、VRユーザーに限定しているため、実情に沿っている可能性はある。
  • 「男性が多い」というのもわかる。聞くコミュニティによってはすーごい変化しそうだけど。
  • 「2年間全体で総プレイ時間が増加」というのは、つまり「ソーシャルVR国勢調査に回答する人は継続的にソーシャルVRを遊ぶ人」ということを意味していそう。"2023年現在では"という補記はつくけどね。
  • 「バーチャルキャスト」利用者の目的が「動画配信」トップなのはプラットフォームの出自特性を考えりゃそれはそう。ただ、最近は純粋なユーザー交流として楽しむ人も多いとは聞いている。
    • いちおう2021年調査と比較すると、「友達との交流」が68%から86%になっている。
  • コミュニティ所属についてはそこまでいうことはないが、「音楽関連」項目としてデカいかも?とは思った。DJと演奏・歌とでコミュニティがけっこう違う印象がある。

Check2:アイデンティティ

ユーザーの使用アバターと音声コミュニケーションについての調査。

  • 「女性アバターが優勢」というのは、提示されている回答理由だけでなく、「流通数・対応衣装数が多い」というアイデンティティ外の動機も大きそうだね、とは自分の周囲でよく言われていたりする。
    • あと、「背の高い男性アバターで、背の小さい女性アバターたちを見ていると首を痛める」という、なんともフィジカルな理由も聞く(というか、実例が近くで起きた)。
    • 「男性アバターでいるとナンパ目的と思われるので控える」という話も聞いたことがある。このあたりは「"ドレスコード"に合わせるため」という理由になるか。
    • いちおう換言して「外見が好み」「自分を表現しやすい」にはなる。とはいえ、アバター改変をする上での利便性から選択する人は多そう。
  • アバター種族は前回から特に異論はない。
    • 強いていうと、「アバターの頭身」についても調査するとおもしろそうだなと思った。
  • やはり市販品の改変使ってる人が多いのか……という体感一致。
  • 「cluster」でオリジナルアバターが多いのはほぼ確実にVRM(VRoid)対応しているから。
    • この延長線として、VTuberが活動拠点として出張しやすいのってやっぱ「cluster」よね、という話も(イベント目的が多いという話にもシンクロ)。
  • 声については特に言うことなし。AIボイチェン使ってる人はチラホラ増えてるよね。
    • 割合が少ないのは技術的に面倒なこと以上に、「RVC」あたりはグラボ動かすのでFPSがモリッと減ってしまい、使いにくいという事情がたぶんある。ラグも問題だけど。

Check3:コミュニケーション

ユーザー同士の心理的・身体的コミュニケーションについての調査。

  • 前回に続き、恋愛・性愛への偏りが強い。
    • おそらく調査者であるねむちゃんとMilaさんの専門・関心領域がそこであるため、と思われる。
    • 本調査が批判的に見られる要因とも考えられる。関心がある人が多い領域なのも事実だが、「触れるな」と思う人が多いのも事実。
    • とはいえ、「Just行ってきたわ」「いまAさんとお砂糖してる」と語るユーザーも普通にいるし、目の前でちゅっちゅし始めるユーザーもたしかに見てきたので、「存在しないもの」ではないのはたしか。「それこそここの文化やろ」と語る人も実際見たことがある。
  • 距離感、スキンシップなどと合わせて、「対人関係の変化」「性格の変化」「現実への影響」など、より包括的にコミュニケーションについて問う設問へと拡大するのがベターかなと思った。
  • 調査結果単体で見ると、恋に落ちた人、恋愛に発展した人、性行為を経験した人の比率があまり変わってないのは、「昨年あたりのメディア露出などで"それ"目的の人が増えたわけではない」という論拠になるか、とは思った。恋も愛も普遍的。
    • 「現実でも恋人になった」が増えたのはおもしろい。コロナ禍が明けつつあるためかな。
  • 恋愛はともかく、性行為について関心のある人はいると思うので、1トピックにせず、より深い単独調査として切り出すのもアリじゃないかと思った。この設問が理由で回答を拒否する人もいるだろうし。

Check4:経済

ソーシャルVRにまつわるお金のあれこれについての調査。

  • 「ソーシャルVRでの観光・商品体験をきっかけに、物理現実の商品を買ったことがあるか」が4割いってるのは興味深い。VRユーザー限定と考えると、VRの没入体験が商品訴求に大きく寄与するということかしら。
  • 3Dモデルの支出が多いのは「それはそう」という感じ。
    • 「3Dモデルへの支出」はそろそろ1テーマ調査にしてもいいんじゃないかしら(というか自分が見たいし、やりたい)。
  • 「ソーシャルVR関連の活動による収入」はちょっとファジーな印象を受けた。クリエイター、パフォーマー、タレントあたりは想定しやすいけど、「ソーシャルVR関連事業への就職・起業」とかは含む?
    • あと自分のような文筆業とかってけっこうボーダーラインな気がするぜ。
  • 経済圏に関する調査は単独調査でもよさそう……というか、Biz的な関心がいちばん高いのここな気がするよね(何が言いたいかは言うまい)。

Check5:ファントムセンス(VR感覚)

VR体験中に発生する"擬似的な感覚"に関する調査。

  • あえて言うと、ここだけかなりテーマがニッチ。
    • たぶんねむちゃんの関心テーマな気がするけど、どうでしょ。
  • ファントムセンスに限らず、「視力変化」「体の不調」など、「VRを通した身体感覚・体験」みたいにテーマ拡張したほうがいい気もする。ささいな身体の変化もある種のライフスタイルではあるはずなので。
  • 「プラットフォームごとにファントムセンスが起こる部位の発生確率が異なる」というのはなぜだろう?

総じて

  • 体感と一致するところは多かったので、調査と可視化の意義はある。
  • 全体的に、「2年間で大きな変化がない」という結果が多いのは興味深かった。"回答者の範囲"では、全体的なライフスタイルに大きな変化はなく、順調に人口がスケールしている、ということになるかしら。
  • 「コミュニケーション」と「ファントムセンス」の設問はややバランスを欠くように感じた。より汎化させた設問への昇華がベターだと思う。
  • 「どんな人が回答したのか」について、パーソナリティだけでなく、詳細な所属コミュニティの情報もほしいと思った。
    • そのへんが明示されていれば「あー、あのへんの回答なのね」という把握ができる。
    • ソーシャルVRが「国境のないひとつの国」だとしても、国の中に地域・自治体が無数に存在し、それぞれで文化や住民のありようは大きく異なる。ソーシャルVRにもおそらく同様のことが言える。
  • 総合すると、調査自体の意義はあるが、ジェンダーセクシャリティ研究、およびファントムセンス研究の側面がまだ強いように感じる。
  • 「Lifestyle Survey(ライフスタイル調査)」という英題はまだ妥当だけど、これに「国勢調査(National Census)」という日本語をあてるのは、ちょっと乱暴かな~とも思った。法的な話ではなく、ことばの持つ意味と力の話。
    • 「『国境のないひとつの国』になっていってほしい」という願いをこめたいのは理解するけど、こういう調査ってなるべく中立的であったほうが信頼されるはず。
    • このへん、ねむちゃんのことなので"あえて"だろうとは思っている。戦略的には特に否定しない。
    • 改題されたのでこのへんは削除。

以下駄文

  • 別個調査について
    • 「俺の知るソーシャルVRはこんなんじゃない」という声がまぁ見られるので、別の方角に向けた調査もやりゃあいいのでは、という話。
    • 「特定プラットフォームに限定した調査」「非VRユーザーも含めた調査」はやってよさそう。特に「デスクトップユーザーも含めたVRChatユーザーへの調査」は、「ソーシャルVRライフスタイル調査」との差分も重要なデータになりそうなので……おれがほしい(我欲)。
  •  調査対象をどう増やし、網羅していくか。
    • 偏りを減らすべくメディア・コミュニティに協力を仰いだとあるが、記載のある面々(PANORAとかHIKKYとか)は体感だが「人通りの多い繁華街」に通じていて、より"閑静"な場所に住む人の声は回収できていない、ような印象。
    • 特に「VRChat」は、コミュニティの細分化が想像の10倍は進んでいて、しかも相互接続が意外とない。「よそは別の世界」という空気を感じることもあるので、「圏外」が(調査者当人たちの想定よりも)多いんじゃないかなーとは考えた。
      • 桔梗ちゃんのイイネが17000超なんだから、2000でもまだまだ少ないはず。
    • 空気だけじゃなく、そもそもXや大規模Discordサーバーには住んでなく、クローズドなDiscordサーバーやMisskeyにだけ暮らしている人も多い印象。彼らにリーチし、回答をもらうには、本当に草の根までコミュニティに協力を求める必要がありそう。
    • うん、めちゃめちゃ無理ゲーに近い。対外広報も対内広報も死ぬほどがんばらないと実現できないんじゃないか。
  • 調査テーマの細分化について。
    • 「ライフスタイル」という枠組で包括的に質問しているが、たぶん一部トピックはもうちょい設問を充実させた単独調査に切り替えてもいい頃合いじゃないかな……とは思った。
      • 特に経済。「現実経済への波及」とか、めちゃ需要ありそう。
    • とはいえ、包括的に聞くからこそ見えてくるものもあると思うので、この調査方式が悪いというわけではない。
  • そもそもどう回答してもらう?
    • たぶん本人たちも悩んでそうだけど、「無償のアンケート」ってよっぽどのものじゃないと回答が集まらない気がする。だって報酬ないんだもの。
    • じゃあ「回答したらこれあげる」にすると、報酬目当ての質の悪い回答がくるかもしれないし、そもそもどこからその元手を用意するのか、みたいな話になる。
  • いっそ「点」を掘るべきか。
    • こういった調査で(範囲はともかく)「面」のデータはとれたので、「点」の情報を掘りまくって、並べて、「実際どうなんだろね」ってことを考えてみるやつ。つまり単独取材である。
    • それも「どこ・だれに聞くのか」を分散させないと有効じゃなさそうだけど。

 

まぁアレっすよ。みんなで手ェ動かしましょうぜ。